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『仮面ライダー青春譜』第2章 紙の街に生まれて(7)

●もう一人の「影丸」――貸本劇画の時代

「おい、菅谷。いくらたくさん雑誌のマンガを読んでたって、『影丸』を知らないようじゃマンガ好きとはいえないぞ」
 中学二年生のとき、休み時間にKというクラスメイトがぼくに声をかけてきた。
「影丸って、『伊賀の影丸』じゃなくて?」
「ちがう、ちがう。白土三平の『忍者武芸帳』の主人公さ。首を切られても生きてるすごい忍者なんだ」
「白土三平って、そんなマンガも描いてたの? 雑誌では見たことがないけどなあ」
「雑誌じゃなくて貸本屋で借りてくる単行本だってば。初めてのときは、生徒手帳を預けて借りる仕組みになってるんだ」
「へええ……」
 ぼくは、その話を聞いて、初めて貸本屋というところに足を向けた。それまでさんざんマンガを読んでいながら、貸本屋には縁がなかった。市内に貸本屋は二、三軒あったが、歩いていけるのは一軒だけ。あとは自転車が必要なほど遠かった。
 商店街のあいだに、ひっそりと埋もれていた一軒の貸本屋に出かけると、書棚には、それまで目にしたことのないようなマンガの本がズラリと並んでいた。

 焼きソバ店や理容店の待合室にも、業者が定期的に運んでくる貸本店向けのマンガ本が並んでいたが、そこにあるのは手垢にまみれた古い本ばかりだった。掲載されているマンガも、少年雑誌に載っているものに比べると、ずっと泥臭く、また、ヘタクソに見えた。そんなこともあって、貸本店向けのマンガや劇画には、いまひとつ興味が持てずにいたのだ。
 貸本屋に入ってはみたが、最初に本を借りるときに生徒手帳を預けなければいけないという。学校では、ときどき抜打ちの持ち物検査があり、生徒手帳を持っていないと、立たされたりもする。しかも、その貸本屋にやってくる客は、チンピラ風の若者や水商売風の男女ばかり。ヤバイところのような気がして、早々に退散してきたのだった。
 翌日、Kにそのことを話すと、生徒手帳を預けなくても本を借りられる貸本店を教えてくれた。
 その貸本店は、東海道本線の駅を挟んだ反対側にあった。中学校の学区も異なる地域だったため、そんなところに貸本屋があることも知らなかった。
 ここでは、店番をしている初老のおばさんが、生徒手帳で住所と名前を確認するだけで、あとは何もいわずに本を貸してくれた。
 最初に借りたのは『忍者武芸帳』ではなかった。人気があるせいなのか、店内には見当たらなかったからである。
 ぼくは、さいとう・たかをの『台風五郎』シリーズを二冊ほど借りてきた。子供の頃に見ていた日活アクション映画に似た雰囲気に惹かれたからである。
 それまでにも、焼きそば店や理容店で、さいとう・たかをの作品を読んではいたが、その大半は、「ゴリラ・マガジン」や「刑事」といった短篇劇画集に掲載された短編ばかりだった。
『台風五郎』を読んだぼくは、少年マンガ雑誌にはない貸本劇画の迫力に打ちのめされ、これがきっかけで、貸本屋に通い詰めることになる。
 佐藤まさあきは、絵は好きではなかったが、暗いムードとストーリーに魅せられた。
『忍者武芸帳』は、その後も、なかなか借りるチャンスに恵まれず、まとめて読むのは、小学館で文庫が出てからのことになる。『忍者武芸帳』を熱心に読もうと思わなかったのは、「サスケ」などの少年マンガと比べると、絵が荒々しく、ちょっと見には雑に見えたからだ。さいとう・たかをの絵が、迫力ある荒さで描かれているのは許せるが、雑誌の丁寧な絵を見慣れていた白土三平の方は、その荒さが、手抜きのように思えてしまったのだ。読者というのは、本当に勝手なものである。


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