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『仮面ライダー青春譜』第4章 アシスタントから編集者へ(3)

●大人への階段

 初めての休みの日、ぼくは、従兄弟が住む中野坂上のマンションに遊びにいった。この従兄弟は母の姉のひとり息子で、芸能プロで俳優のマネージャーをやっていた。
「みっつるちゃーん、はじめましてーっ!」
 中野坂上にある従兄弟のマンションに着き、ドアの呼び鈴を鳴らすと、まるまると太った若い男性がドアを開け、にこやかな笑顔で声をかけてきた。三枚目をめざす役者さんだという。年齢はぼくより六歳上だった。
 芸名は、畠山麦{はたけやま・ばく}。TBSテレビ系で放映された『柔道一直線』(六九年六月~七一年四月放映)に、主人公の一条直也の先輩役で登場してくるのは、この少し後のこと。『秘密戦隊ゴレンジャー』に、カレーの好きなキレンジャーの役で出演するのは、さらに数年を経てからになる。

 その日は、従兄弟のマンションでぼくの歓迎会が催され、ビールとウィスキーをたらふく飲まされた。
 父をはじめ、周囲には酒飲みばかりがいたせいで、ぼくはずっと酒飲みを憎んでいた。そのため上京するまで一滴の酒も飲んだことがない。
 高3の夏休み、アシスタントになることが決まったとき、同級生たちが就職祝いを開いてくれたことがあった。夜、水泳部の部室に、柔道場の畳を剥がして持ち込み、ここで酒盛りを始めたのだ。安いウィスキーをコークハイにして飲んだおかげで、ぼくを除いた全員が酔っぱらい、夜のプールに飛び込んでいた。そんな状態でも、主賓のぼくは、コーラを飲んだだけだった。
 しかし、社会人になったんだから、酒くらい飲めなければダメだと従兄弟に説教され、その挙げ句に、従兄弟夫妻と麦さんから、次から次にビールとウィスキーを注ぎ足され、とうとう酔いつぶれてしまったのだ。
 畠山麦さんとは、この日の出会いをきっかけに、その後、暇さえあれば一緒に遊ぶようになる。酒を飲み、深夜の代々木公園にアベック(死語?)を冷やかしにいき、山や川にも遊びにいった。麦さんたちと遊ぶのが便利なように、アパートも近くに引っ越したほどだった。
 その夜、従兄弟のマンションに泊まったぼくは、翌朝、電車を乗り継いで大泉学園のアパートに帰ったが、二日酔いの気配などカケラもない。もともと呑ん兵衛の家系に育っていたせいで、肝臓が頑丈だったのかもしれない。
 途中、西武池袋線の車窓から、「古田体制打倒」「安保反対」などと書かれた大きな立て看板が見えたが、そこが江古田の日大芸術学部だということを知ったのは、しばらくたってからのことだった。


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