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■『仮面ライダー青春譜』第4章 アシスタントから編集者へ(12)

●マンガ家地獄編――永井豪さん『鬼』にたたられる

「別冊少年マガジン」で、人気マンガ家の仕事場訪問を担当させられたのも、入社直後のことだった。人気マンガ家の仕事場をイラストで図解してもらい、1週間の食事のメニューを書いてもらう。その食事メニューには、その頃、人気の高かった医事評論家の石垣純二氏がコメントをつけることになっていた。
 十人以上のマンガ家の方々の仕事場を訪問し、仕事場を描いたイラストと食事メニュー集めるのが、ぼくの任務である。
 最初に『スパイダーマン』(平井和正原作)の池上遼一さんは、吉祥寺の薄暗いアパートで、ゴミの山の中でマンガを描いていた。
 印刷された絵は、すごくきれいで、なおかつ迫力があるのに、原稿は、ほんとうに汚かった。ろくに鉛筆の線も消えておらず、強いタッチの線が、画用紙に食い込んでいた。
 問題は永井豪さんだった。
 ちょうど初の長編SFマンガとなった『鬼』を描いていたときで、永井さんは過労で倒れてしまっていた。
 ダイナミック・プロのマネージャーT氏は、「少年マガジン」に一挙掲載予定の『鬼』の原稿が落ちそうで、とても仕事場のイラスト図解など描いている暇はないという。「どうしても仕事場のイラストが必要なら、そちらで勝手に描いてくれ」というのだ。しかたないので、ぼくがダイナミック・プロに出かけて仕事場をスケッチし、このスケッチを元に描き上げた絵が、誌面に使われることになった。
 急いでいたので、あまりいい出来だとは思わなかったが、原稿の監修をお願いしたT氏は、原稿を見るなり、ぼくの顔を覗き込んできた。

「これ、きみが描いたの?」
「はい」
「うーーん、よかったら、うちにこないか?」
 と、いまの言葉でいうヘッドハンティングをされたのだ。
 いくらなんでも、入ったばかりの会社をやめるわけにはいかないので、丁重にお断りし、さらに高校生のときのイキサツもT氏に説明した。ひょっとしたら、ぼくは、永井豪さんの第1号のアシスタントになっていた可能性があったのだ。
 高校3年のはじめ、すでに石森先生のアシスタントになる内諾を得ていた『墨汁三滴』会長の菅野誠から、ぼくのところに電話がかかってきたのだ。
「石森先生のところから独立した永井さんが、ギャグマンガを描けるアシスタントを捜しているんだけど、紹介してほしい?」と菅野は言うのだ。
 ギャグマンガも描いていたぼくの絵柄なら、たぶんOKだろうという。喜んで、紹介して欲しいと頼んだのだが、菅野が話してくれたときには、すでに先約が決まっていた。ぼくたちが目標としていたマンガ同人誌のひとつ『宝島』(竹宮恵子、大和田守[夏希]さんたちも会員だった)の会長をしている小山田つとむという人が、アシスタントに決定してしまったというのだ。
 そのときは永井さん自身も、こんなに忙しくなるとは夢にも思わず、アシスタントは1人で充分と思っていたらしい。
「そりゃ残念だったねぇ」
 といってくれたダイナミック・プロのマネージャーT氏に連れられて、今度は永井さんの実家を訪問した。永井さんのお母さんから、最近の1週間の食事のメニューをインタビューするためだ。
 しかし、家がすぐそばなのに、仕事が忙しく、家で食事をとることもないらしい。過労で倒れてしまったのも、そのあたりに原因があるようだった。
『鬼』の方は、園田光慶氏のところから独立したばかりの新進マンガ家で、直後に「週刊ぼくらマガジン」で『超人ハルク』を描く西郷虹星さんや、まもなく「別冊少年サンデー」で児童文学作家の山中恒氏作の『天文子守唄』をマンガ化する川手浩次さんたちが手伝って、なんとか完成させていた。
 そうそう、永井さんの仕事場には、石森先生のところで永井さんと一緒にアシスタントをしていた野口竜さん(後に「少年サンデー」でアリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』をマンガ化)が手伝いにきていたし、その後、ダイナミックプロの中枢になる石川賢さんもアシスタントとして活躍中だった。
 マンションの室内だというのに、高下駄を履き、竹刀を持って、後輩をしごいていたのは、後に永井作品の『マジンガーZ』を「冒険王」に連載することになる桜多吾作さんだった。
 その取材の際、永井さんのお母さんが一生懸命思い出しながら、正直に教えてくれた永井さんの食事のメニューに対する石垣純二氏のコメントは、「死にたくなかったら、早く結婚しなさい」だった。


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コメント

>「うーーん、よかったら、うちにこないか?」

お約束の展開になってきましたね。


野口竜さん、メカが抜群にうまかった方ですよね。
ぼくが「デラックス・サンデー」に『アフリカの
爆弾』(筒井康隆さんの小説)を描く際に、カラー
頁の見開きに、核ミサイルだけ特別に描いてもらった
ことがあります。
カラーで質感を描けるのは彼だと思い、お願いしま
した。


>MMMさん

 お約束の展開には、たぶん行きません(笑)。

>長谷先生

 野口さんは、たしか『あかつき戦闘隊』でもメカを描いていて、それがきっかけで『女王陛下のユリシーズ号』をマンガ化したはずですが、本当にメカなどが上手でしたね。

 その後は、幼年誌の口絵や図解などを描かれていました。あれ、数年前に、どこかで会った記憶が……。永井豪さんの誕生パーティーだったかな?



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