モバイルコラム

** No.004 **
東芝の失敗
情報開示と
スピード
(99/07/21)
 例の東芝サポート問題は、東芝側がホームページの一部ページ削除の仮処分申請を取り下げ、全面謝罪となったが、この問題を見ていてあきれたのは、東芝の対応の旧態依然ぶりだった。ホームページで暴言の音声ファイルが公開されてから、あわてて対応を始めたようだが、その対応は、昔ながらのアンダーテーブルの手法。一方がホームページという公開の場で不満を訴えているのに対し、「直接会って、お話を」というポーズを取った。
 多くのインターネットユーザーが東芝の敵にまわってしまったのは、反論や調査の過程をホームページで公開しないことに苛立ったからだ。東芝本社の担当者たちは、「ネットワーク時間」は、24時間ノンストップで、しかも、実社会の数倍、数十倍のスピードで進んでいくことに気づいていなかったのだろう。会議をしている間にもA氏や関連掲示板の書き込みは進行しているから、それにまた振り回されることになる。さらには、要らぬ噂や憶測までも増幅させることになっったのだ。
 謝罪の記者会見内容を読む限り、東芝側は、まるでインターネット(の世論)に振り回された被害者だといわんばかりでもあった。が、もしも東芝が、自分たちに非はないと本気で思っていたのなら、堂々と自らのホームページで反論すれば良かったのだ。たとえ相手が個人であっても、インターネットという「メディア」の上で戦う限りは同等のはずだ。A氏の個人情報などについては配慮したうえで(A氏も東芝社員の個人名は匿名にしていた)、資料なども公開し、堂々と反駁すべきではなかったのか。それをしないから、「東芝は何か隠している」と、よけいなことまで勘ぐられてしまうのだ。
 納得させるべきはA氏だけでなく、この問題に関心を持っていたすべてのインターネットユーザーでもあったはずではなかったのか。
 これは企業対企業の例になるが、1995年に富士フィルムがコダックから、フィルム価格の操作の疑いなどでスーパー301条にのっとって提訴されたとき、富士フィルム側は、ホームページの上で徹底的に戦った。資料を公開して、コダック側の主張をことごとく退け、はねのけたのだ。もちろん、その姿勢がホームページを見ていた人たちの信頼を得ることにもつながった。
 相手を屈服させるだけでなく、聴衆を納得させること――これがディベートの原則でもある。東芝は、この点でも稚拙であったといわざるを得ない。
 ちなみに富士フィルムの資料は、いまも富士フィルムのサイトに残っている。日本語版は http://www.fujifilm.co.jp/ の日本語ページから「検索」を選び、「コダック」を入れて検索すれば読むことができる。とかく謙譲の精神にあふれ、低姿勢の曖昧な表現になりがちなのが日本企業のリリースだが、この富士フィルムのリリースは、徹底的にコダックの提訴や資料の弱点を論破している。英語のリリースを訳したものだろうが、それにしても、自分たちの正当性を高らかにうたいあげるかのような、自信とプライドにあふれた小気味よい文章になっている。
 東芝のサポート問題は、総会屋などの対策部門がA氏の担当になったことが、問題をこじらせた原因だろう。そして、富士フィルムでも総会屋対策をしていた専務が刺殺された苦い経験を持っている。なぜ刺殺されたかといえば、総会屋への利益供与を断ったから。そのような企業としての姿勢が、コダックに対する痛快で小気味よい反論の文章を生み出す背景になっているのでは――と思ったりもする。ぜひ、今回の事件に関する東芝のリリースと比較してみていただきたい。
 ぼくのアメリカ人の友人たちは、みな、東芝のノートパソコンを使っている。サポートがいい(国際サポートもOK)というのが、その理由だ。来日したアメリカ人の東芝製ノートパソコンが壊れたときも、即座に対応してくれた。ぼくもダイナブックを3台使ってきたが、とくにサポートに対して不満を抱いた経験はない。サポートのお世話になる前に使い潰してしまうことが多かったせいでもあるのだが……。(END)
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