モバイルコラム

** No.006 **
日本のモバイル
米国のモバイル
(99/07/27)
 アップルからiBOOKという「可搬型」Macが発表され、Macファンの熱い視線を浴びている。しかし注目されているのはデザイン面ばかり。大きさ(ほぼA4サイズ)と重さ(3kg)に失望した日本のユーザーも少なくない。これではモバイルユースには使えそうにないからだ。
 Macユーザーの多くは、Windowsユーザーに対して精神的な優位感を抱いている。ところが、ことモバイル環境となると、MacにはB5サイズ以下のサブノートタイプがない。しかたなしにWindows CE機やザウルスを使っている人も少なくないのだ。つまりMacユーザーは、モバイル環境においては、いつもグヤジー思いをしてきたことになる。
 いまでこそモバイル・コンピューターなどという言葉が出てきたが、最初の可搬型パソコンは、携帯可能な小型パソコンということで「ポータブル・コンピューター」と呼ばれていた。5インチCRTのついたオズボーンのパソコンが、その第1号である。いまのノートパソコンに比べれば、イヤになるほど重いパソコンだった(はずだ)が、飛行機に持ち込み可能なサイズということで人気を得た。
 パソコンユーザーがBASICやCP/M、あるいは普及しはじめたMS-DOSに頭を悩ませていた1984年、まさに彗星のように登場したのがMacintoshだった。パソコン(PC)ユーザーたちが、コツコツとDOSのコマンドをキーボードから打ち込んでいたときに、マウスひとつで操作できるコンピューターが登場したのだ。まさに革命だったといっていい。
 それもディスプレイと本体が一体化したコンパクトなもので、本体にはフロッピーディスクドライブが1つ付いていた。これにキーボードとマウスを接続して使う仕組みだった。
 Macはグラフィック機能も強化されていて、PCではむずかしかった「お絵描き」も簡単にできた。ぼくも、日本でMacが発売された直後、「週刊ポスト」に依頼され、販売業者から借りたMacでマンガを描いたこともある。
 ぼく自身が最初にMacを買ったのは1986年になってからだった。本体のメモリーが2メガバイトに強化されたMac Plusだ。当時の(いまも?)アップルの販売方法は強気一本槍で、値引きは一切なし。しかたなしに販売代理店から正価の49万8,000円で購入した。同時に外付けフロッピードライブとレーザーライターII(120万円!)も買ったためか、販売業者は値引きのかわりに「ショルダーバッグ」をオマケにつけてくれた。
 そうなのだ。ディスプレイ一体型の初期Macには、オプションとして、肩掛けベルトのついた「ショルダーバッグ」が売られていたのである。もちろんMac本体を持ち運ぶためのものだ。
 Mac Plusの大きさは幅246×高さ344×奥行き277ミリ、重さは7.6kgだった。この重さでも充分に「可搬型コンピューター」だったのだ。
 アメリカに出かけたとき、サンフランシスコでMacを入れたショルダーバッグをたすきがけにして、自転車で走りまわる学生を見たことがあるが、これでも充分に「モバイル」だったのだろう。ただしアメリカでは、自転車や電車通勤をする人は多くない。「モバイル」といっても車や飛行機での移動が中心だ。痛勤地獄はロサンゼルスやシリコンバレーのフリーウェイの渋滞くらいのものだろう。もちろん体力もちがう。
 ぼくもショルダーケースに入れたパソコンをサーキットに持っていき、レース速報をやったこともある。もちろん車での移動だったからできたことだ。
 80年代中盤、東芝から液晶ディスプレイとバッテリーを搭載したT1000シリーズが発売され、それまで携帯パソコン市場を独占していたタンディ200を駆逐するが、これとても最初は480×200ドットの粗いモノクロ液晶しか搭載していなかった。アップルが折り畳み式の液晶ディスプレイを搭載したMac Portableを発表するのは、CRT並みの精細度を持った液晶スクリーンが登場する1989年になってからだ。しかし、その重さは7.7kg。Mac Plusよりも重かったのだ。ブックでもノートでもなく、まさにポータブル(可搬)でしかなかった(バッテリーは12時間も保ったが)。東芝が液晶のT-1000の前に、プラズマディスプレイを使ったラップトップ(膝上)型パソコンのT3100シリーズを発売したときは、アメリカ人でさえも「ラップ・クラッシュ・コンピューター」だなどと揶揄したものだが、アップルは、Mac Portableにラップトップと銘打つような愚かなことはしなかった。
 やがてMac陣営ではPower Bookが登場してくるが、今回のiBookは、このPower Bookの延長にあるものだろう。アメリカ人の体力、アメリカの交通事情を考えれば充分にモバイル型だろうが、日本では省スペース・コンピューターにしかなりそうにない。モバイルの世界では、まだしばらくWindows陣営の優勢がつづきそうだ。
 だが、それ以上に問題なのは、あのデザインだ。iMacもそうだし、ソニーVaio以降のマグネシウム合金筐体のWindows系サブノート・パソコンもそうだが、パソコンがオシャレになればなるほど、ファミリーレストランや喫茶店の片隅で“秘やか”にパソコンを使いたい身としては、手が出しにくくなる。自己主張の強いオシャレなパソコンの前では、一歩ひいてしまうんですよね、オッサンは。
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【参考】東芝のリブレットをFusionというソフトを使ってMac化しているイラストレーター米田裕さんのホームページ:http://member.nifty.ne.jp/yutaka-y/
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