モバイルコラム

** No.007 **
オヤジのカキコを
撲滅せよ
(99/07/30)
 ぼくは日本にパソコン通信が登場した1985年からのネットワーク・ユーザーだが、いつまで経っても馴染めないのがネット用語の数々だ。たとえばコメントの意味での「Res」や「レス」。オジサン族が多かったPC-VANが発祥の地だったと思うが、「Response」の略だったはずだ。
 ぼくは日本にパソコン通信が生まれた1985年からパソコン通信を始め、いまだにネットワークを使っているが、いまだに「パソ通」「ネット」「ニフ」「ニフマネ」「ネスケ」といった短縮言葉には馴染めないでいる。このような短縮言葉の多くは若者たちが使いはじめたものだが(「レス」についてはオジサンたちが使い出したと記憶している)、無理に若者に迎合する必要はないと思っているからだ。
 ネットワークには、顔文字のような特殊なコミュニケーションの補助手段もあるが、この傾向は日本だけのことではない。英語の世界にも「PMJI(Pardon My Jump In=割り込み失礼)」「OTOH(On The Other Hand=その一方で)」「BTW(By The Way=ところで)」といった短縮言葉があるし、「:-)」「;-)」といった顔文字も初期のインターネット・ユーザーの間で使われはじめたものだ。
 しかし、日本のネットで生まれた「レス」のような言葉は、どちらかというと仲間であるかどうかを選別するための業界用語的な符丁として使われていることが多い。それも「軽さ」を伴った浅いコミュニケーションの手段としてである。「レス」のような短縮用語は、ハンドル(註)とのセットで、自分の発言に責任を取りたくない意思を表明しているのではなかろうかと思うことさえある。
 業界用語や符丁は、業界や特殊な世界の中だけで通じる言葉で、そんな言葉を使うことで、イッパシの業界人になった錯覚を覚える人も少なくない。とくに芸能プロやテレビ局の下請けプロダクションに就職したりバイトで雇われたようなニワカ業界人に、この傾向が強い。本来、業界の中だけで通じる言葉を、他の世界の人たちもいる酒場や喫茶店で声高に使うことで、「ちょっと違う世界の住人なんだぞ」というエリート意識を満足させ、同時に近くにいるミーハーな女の子の気を引こうとしたりしているのだが、このような行為は、まさに若気の至りで、いつしか恥ずかしくなっていくものだ(中には、いつまでも、それらしいファッションや髪型で身を飾り、肩で風切って歩いているオヤジ世代の業界人もいるが)。
 寿司屋で「アガリ」や「ガリ」といった言葉を使う客も、通ぶっているだけで、店の人には「底の浅いヤツ」と軽蔑されていることが多い。これはワインバーでワインの産地や銘柄を披瀝し、通ぶっている客も同じだろう。そんな寿司通やワイン通のように、「レス」やら「カキコ」やらといった符丁を使うことが、「ネット通」であると錯覚しているユーザーも少なくない。
 ところで、最近、あちこちで目立つネット用語に「カキコ」という言葉がある。「書き込み」の略だろうが、若い女性が使うのならまだしも、いいオッサンが使っているのを見るたび、「こいつアホか」と、つい画面に毒づいてしまう。
 こんな言葉で自分を若く見せ、若者の軽くて浅いコミュニケーションに参加したいのだろうが、無理に若者言葉を使って若い社員にコビを売る中年管理職と同じで、滑稽と悲哀とに満ちあふれていて、もう情けないったらありゃしない。ぼくは「カキコ」という用語については、使用者に年齢制限を設けるべきだと考えている。
 つい先日も、掲示板を始めたという40代男性から、「どんどんカキコしてください」という参加要請のメールをもらったが、URLも控えずにクロヤギさんにムシャムシャと食べさせてやった。あ、これで、若い女性に人気のポストペットを使っていることがバレてしまったが、仕事上、知らないといけないので……と言い訳しておこう。ちなみにぼくは、ポストペットを「ポスペ」と短縮するのにさえも抵抗がある。古い風俗用語と語感が似ているからだ。
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(註)ハンドル(handle)=《俗》肩書き,称号;名前;《略式》(市民ラジオで)コールサイン(プログレッシブ英和中辞典 第3版/小学館より)。パソコン通信用語での「ハンドル」は、市民無線のコールサイン(愛称)に由来しているため、本来は、この一語で名前やニックネームの意味になる。「ハンドルネーム」「ハンドル名」という使い方は英語的には誤りだが、日本では、こう書かないとピンと来ない人も多いので、これはこれで、しかたないだろう。(END)
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